暴行・虐待(ドメスティック・バイオレンス=DV)について、近年特に事例が増えています。DVから身を守るために、DVについて詳しく紹介していきます。
DVについて
ドメスティック・バイオレンスとは、英語の「Domestic Violence」をカタカナで表記したものであり、略して「DV」と呼ばれます。
「ドメスティック・バイオレンス(DV)」が何を意味するかについて、明確な定義はありませんが、一般的には「配偶者や恋人など親密な関係にある、またはあった者からの暴力」という意味で使用されます。
「配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護等に関する法律」(略称:「DV防止法」)においては、被害者を女性に限定していませんが、DVの被害者の大半が女性となっています。
DV(暴力)の形態とは?
一口に「暴力」といっても様々な形態が存在します。これらの様々な形態の暴力は単独で起きる事もありますが、多くの場合は何種類かの暴力が重なって起こっています。また、ある行為が複数の形態に該当する場合もあります。
身体的暴力
身体的暴力とは、殴る・蹴るなど直積的に有形力を行使するものであり、刑法204条(傷害)や刑法208条(暴行)に該当する犯罪行為です。これらはたとえ配偶者間で行われたものであっても、処罰の対象となります。
- 殴る
- 蹴る
- 平手で打つ
- 物を投げる
- 首を絞める など。
精神的暴力
精神的暴力とは、心無い言動などにより、相手の心を傷つけるものです。後述する経済的暴力や社会的暴力についても、精神的暴力の一部とする分類法もあります。精神的暴力については、その結果としてPTSD(外傷性ストレス障害)に至るなど、刑法上の処罰の対象となり得ます。
- 何を言っても無視する
- 口汚く罵る
- 脅す
- 恥をかかせる など。
性的暴力
性的暴力とは、嫌がっているのに性的行為を強要したり、中絶を要求する、避妊に協力しない、といったものです。
- 性的行為の強要
- 避妊に協力しない
- ポルノを無理やり見せる など。
経済的暴力
経済的暴力とは、相手の経済的な自由を束縛する行為であり、主に次のようなものがあげられます。
- 生活費を渡さない、懇願しないと生活費を渡さない
- 金銭的な自由を与えない
- 外で働くことを禁じる、仕事を無理やりにやめさせようとする など。
社会的暴力
社会的暴力とは、相手の社会との交流を不当に制限するものであり、例としては次のような行為があげられます。
- 人間関係・行動を監視する
- 家族や友人との付き合いを制限する
- 電話や手紙を細かくチェックしたりする など
以上のようにDVには様々な形態があります。下記リンクの「DVチェックリスト」であらためて確認をしてみてください。
DVのサイクル
暴力にはサイクルがあり、3つのステージを繰り返しながら徐々に程度が過激さを増していきます。このサイクルが何度も繰り返され、さらにエスカレートしていくと被害者は次第に逃げる機会や自尊心を失い、サイクルから脱出することが難しくなります。なるべく早いうちに気づくことが大切です。
- 開放期(ハネムーン期):加害者は暴力を反省し、極端に優しくなり、被害者は「今度こそ暴力がなくなるのでは」と期待する。
- 緊張期(蓄積期):加害者が怒りっぽくなり、被害者はいつ暴力が起こるかと緊張する。
- 爆発期:加害者は激しい暴力をふるい、被害者は外傷を受け、強い恐怖、屈辱感を感じる
DVから身を守る5つの保護命令
ここまでご説明しました通り、DV(ドメスティック・バイオレンス)とは、配偶者や恋人など親密な関係にある、または、あった者からの身体的・精神的・性的な暴力などのことです。DVとは身体的な暴力に限定されません。
もし、DVを受けた場合、先ずは警察や配偶者暴力相談支援センターに連絡をとるなどして身の安全を図り、避難することが大切です。
別居しても夫に居場所を突き止められたというような場合などにはDV防止法(正式名称:配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護等に関する法律)では裁判所による保護命令を定めています。
保護命令制度とは,配偶者や生活の本拠を共にする交際相手からの身体に対する暴力を防ぐため,被害者の申立てにより,裁判所が,加害者に対し,被害者へのつきまとい等をしてはならないこと等を命ずる命令です。保護命令手続においては,保護命令の申立てをする被害者を「申立人」,申立ての相手となる配偶者や生活の本拠を共にする交際相手を「相手方」といいます。
引用:裁判所 保護命令手続きについて
①接近禁止命令とは?
6か月間、被害者の身辺に付きまとったり、被害者の住居(同居する住居は除く)や勤務先等の付近をうろつくことを禁止する命令。
②退居命令とは?
夫婦等が同居している場合で、被害者が同居する住居から引っ越しの準備等のために、加害者に対して、2ヶ月間、住居から出ていくことを命じ、住居付近をうろつくことを禁止する命令。
③子への接近禁止命令とは?
加害者が子に接近することにより、被害者が加害者に会わざるを得なくなる状況を防ぐために必要があると認められるときに、6ヵ月間、被害者と同居している子の身辺に付きまとったり、住居や学校等その通常いる場合の付近をうろつくことを禁止する命令。
④親族等への接近禁止命令とは?
加害者が、被害者と密接な関係にある親族等の住居に押しかけて暴れるなど被害者が加害者に会わざるを得なくなる状況を防ぐために必要があると認められるときに、6ヵ月間、その親族等の身辺につきまとったり、住居(その親族等が加害者と同居する住居等は除く)や勤務先等の付近をうろつくことを禁止する命令。
⑤電話等禁止命令とは?
6か月間、加害者が被害者に対する面会の要求、電話やFAX、メールなど一定の行為を禁止する命令。
なお、保護命令の効力期間が終了してしまうと身体的暴力を振るわれるおそれが大きい場合、前回保護命令を求める根源となった暴力等を原因として、再度の保護命令の申し立てをすることができます。
ただし、延長や更新とは違い、新たな事件として審理されますので、再度の申立ての段階で今後の身体的暴力の恐れが大きいことを証明することが必要です。
保護命令は「再犯」に抑止効果
裁判所は保護命令の申立てを受けた後、2週間ほどで発令することが多いようです。
ただし、DV防止法の「被害者」は、配偶者からの暴力を受けている人、また、離婚後も暴力を受け続けている人に限られ、ここで定める「暴力」には、性的・精神的暴力は含まれません。
保護命令を獲得しておくことは、暴力をふるう配偶者等を遠ざけるという点では大きな意味をもちますが、残念ながら強制的に遠ざけることはできません。
ただし、加害者が保護命令に違反した場合、「一年以下の懲役または100万円以下の罰金」が科され、立派な犯罪行為となります。さらに保護違反の行為を辞めない場合は、警察が逮捕することもあり得ます。
保護命令申立ての流れと注意点
保護命令の申立てにあたっては、事前に「配偶者暴力支援センター」か「警察」に相談、または援助・保護を求めましょう。なぜなら、保護命令の申し立てがなされると、裁判所が配偶者暴力相談支援センターまたは警察に対し、書類の提出や説明を求めるからです。
配偶者暴力相談支援センターとは、DV防止法により各都道府県に設置されたもので、施設の名称は各自治体によって異なります。
配偶者暴力支援センターの職員または警察職員への相談、保護の求め等の事実がない場合には、公証人が認証した宣誓供述書を添付しなければなりません。
認証に要する手数料が1万1000円かかることや、公証役場で公証人の予定に合わせて予約をするなど、時間も手間もかかることから、配偶者暴力支援センターまたは警察へ相談に行くほうが簡便であるといえるでしょう。
保護命令の申立てには、①相手の住所の所在地、②申立人の住所または居所の所在地、③当該申立てに係る配偶者等からの暴力・脅迫が行われた地のいずれかを管轄する地方裁判所に申し立てます。
保護命令の申し立てには、戸籍謄本、住民票、暴力に関する証拠(診断書・写真等)、申立人作成の陳述書などが必要です。
また、保護命令申込書には、次の事項を記載する必要があります。
- 配偶者から身体に対する暴力または生命等に対する脅迫を受けた状況
- 配偶者等からの暴力または生命等に対する脅迫により生命または身体に重大な危害を受けるおそれが大きいという事情
- 被害者の子への接近禁止命令の申立てをする場合、被害者がその子に関して配偶者等と面会することを余儀なくされることを防止するために子への接近禁止命令を発する必要があると足りる事情
- 配偶者の親族等への接近禁止命令の申立てをする場合、被害者がその親族等に関して配偶者等と面会をすることを余儀なくされることを防止するために親族等への接近禁止命令を発する必要があると認めるに足りる事情
- 配偶者暴力支援センターの職員または警察職員に対し、①~④までの事項について相談したり、援助もしくは保護を求めたことがあれば、次の事項を記載
- 配偶者暴力支援センターの職員または警察職員の所属官署の名称
- 相談、援助、保護を求めた日時と場所
- 相談または求めた援助もしくは保護の内容
- 相談または申立人の求めに対してとられた措置の内容
申立人の面接後、通常は一週間ほどで相手の意見聴取のための審尋(しんじん)期日が設けられます。裁判所は、相手の言い分を踏まえた上で、証拠に照らして保護命令を発令するかどうかを決めます。
保護命令に違反すると刑罰(一年以下の懲役または100万円以下の刑罰)が科されることから、裁判所は保護命令の発令には慎重です。ですから、確実に保護命令を出してもらうには、証拠が非常に重要となります。
申立ての準備や申立てをしたことが相手に知られると、相手がその時だけ態度を変えたり、逆上することも考えられるので、秘密裏に進める方が良いでしょう。また、保護命令の申立書は相手に送られるので、所在を知られたくないのであれば、相手とともに生活していた際の住所を記載するなど、気を付けてください。
申立てに理由があると認められると、保護命令が発令され、相手には決定書の送達または相手が出頭した審尋の期日などにおける言い渡しがなされ、効力を生じます。
裁判所は、保護命令の発令と同時にその内容を、申立人が生活する地域の警察に通知します。その結果、事実上しばらくの間、警察から相手に対して毎日電話し、実効性が確保された例もあります。
なお、申立てを却下する決定が出る場合、裁判所から事前に取下げるをすすめる連絡がくることがあります。
保護命令の申立てを却下する決定が出ると、相手に対し、自己の行為がDVではないとの裁判所のお墨付きを与えられたとの誤解を生じさせ、その後ますます暴力行為がエスカレートする場合があるので、却下が予想される場合には取り下げた方がよいでしょう。
相手からの暴力等の危険がある場合には、ただちに逃げてください。そして、弁護士や警察・配偶者暴力支援センターなどに相談するようにしてください。
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